| SESSION OVERVIEW | DETAILS |
|---|---|
| Location / 会場 | 長野県千曲市坂井銘醸 ホール昭和蔵 |
| Target / 収録対象 | ボーカル/ピアノ/パーカッション |
【現場の空気感:THE ATMOSPHERE】
今回のプロジェクトは、長野県千曲市に位置する歴史的な酒蔵をリノベーションした「坂井銘醸 ホール昭和蔵」にて行われました。明治・大正期の面影を残す重厚な木造建築と、高い天井が作り出す深く温かみのある自然な残響。この唯一無二の音響空間を舞台に、CD制作を目的としたボーカル、ピアノ、パーカッションによるトリオのレコーディングを敢行しました。
今回の収録における最大の技術的テーマは、蔵特有の「天然の豊かな響き」を活かしつつ、後工程の編集を見据えた「アイソレーション(各楽器の分離)」を高い次元で両立させることでした。昭和蔵の響きは非常に美しく魅力的である一方、その豊かな反射はマイクへの「音の回り込み(カブリ)」を増大させ、収音の難易度を極限まで引き上げます。
ライブ録音特有の熱量を核に据えつつも、各楽器が互いに干渉しすぎないよう、マイクの指向性と配置をセンチ単位で緻密に計算。空間の響きを良質な「余韻」として捉えながら、各パートの音像がボヤけないよう徹底したマイキング戦略を遂行しました。これにより、蔵の空気感を鮮明に封じ込めながらも、ボーカルの差し替えや微細なエディットが可能な、プロダクションとしての柔軟性を確保することに成功しました。
さらに、こうしたシビアな環境下での演奏を支えるため、各プレイヤーに専用のキューボックス(BEHRINGER P16-M)を配置。16chの個別入力に対応した本機の実力を最大限に活かし、クリックや各楽器のバランスに加え、アンビエント成分までを独立してモニターへ送り込むことで、プレイヤーが自身にとって最適なバランスをリアルタイムで自在に調整できる、多彩かつ快適なモニター環境を構築しました。蔵という特殊な空間においても、スタジオと同等の精度で自身の音を確認できる環境を整えたことで、アーティストは一発撮りの緊張感を維持しつつ、リラックスしてベストなテイクを追求することが可能となりました。
メインシステムには信頼性の高いMacとDAWはNuendoを配備し、シグナルチェーンを純化。歴史的建造物という制約を、クリエイティブなアドバンテージへと昇華させる、OTONEXの「ハイブリッド・レコーディング」の真骨頂を体現したセッションとなりました。
GEAR FOCUS:音へのこだわり
■ Main Microphones
- NEUMANN (ノイマン) / U87×4本
- NEUMANN (ノイマン) / U87ai×2本
- DPA ( ディーピーエー ) / ST4006A×2本
- SCHOEPS (ショップス) / CMC65×4本
- AKG (アーカーゲー) / C414 XLS×4本…etc.
■ System
- STEINBERG ( スタインバーグ ) / AXR4T(Audio Interface)
- STEINBERG ( スタインバーグ ) / Nuendo(DAW)
- AURORA AUDIO( オーロラオーディオ) / GTQ2
- AUDIENT( オーディエント) / asp800
- UNIVERSAL AUDIOT(ユニバーサルオーディオ) / 4-710D
- MIDAS / XL48
- BEHRINGER / POWERPLAY P16-M×5台…etc.
SCENES:共鳴する音と空気



















REVIEW:アーティストと共に「理想のサウンド」を共有
今回のプロジェクトでは、CD制作に向けて全7曲の収録を行いました。ライブ形式での躍動感を軸にしつつ、楽曲ごとに最適なアプローチを選択する柔軟なプロセスを採用。全編ライブ収録でその瞬間の呼吸を封じ込めた楽曲がある一方で、必要に応じてボーカルを後から重ねることで、歌詞の一言一言に込める感情をより緻密にコントロールしました。また、パーカッションも追加のダビングを行うことで、アンサンブルの密度を理想的な形へと追い込んでいきました。
蔵の豊かな響きを「音楽的な味方」につけるためには、回り込みとの絶え間ない格闘が必要でしたが、P16-Mによる16chの多彩なモニタリングと緻密なマイクアレンジがその解決の鍵となりました。プレイヤーがストレスなく自分の音と向き合える環境を構築したことで、差し替えやダビングの際も、元のテイクが持つ空気感を損なうことなくシームレスに音を重ねることができました。
現場で一から作り上げた「最高純度の素材」を携え、後日、ミックスダウンとマスタリングを長野県伊那市のOTONEXスタジオにて実施。CDというパッケージメディアにふさわしい音像を目指し、南アルプスの麓、静謐な環境の中で改めて音と向き合うことで、蔵の響きの中に潜んでいた微細な空気の震えまでを精緻に磨き上げました。
完成したサウンドは、蔵の持つ歴史の重みと、現代的なプロダクション手法が融合した、極めて純度の高い仕上がりとなりました。透明感のある旋律を歴史ある蔵の壁が優しく包み込むような、この場所、この編成でしか生まれ得ない「理想の響き」が記録されました。
坂井銘醸の皆様、そしてこの貴重な空間を最高の状態で提供してくださった関係者の皆様。多くの方々の情熱が重なり合い、アーティストの想いが歴史ある蔵の壁に刻み込まれた、全7曲にわたる記憶に残るセッションとなりました。
